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【M3 す04ab】処方箋アポカリプス*SS2

「ありがとう、更紗(さらさ)」

 にっこりと微笑み少年の頭をなでたのは、第十庁裁判補佐、秘書官の天沢冥だった。常備薬の点検にやってきたという少年の名前は更紗。菫色の髪と大きな目。

その表情は愛くるしく庁内で働く女性職員は働く少年の鞄にお菓子をつめてゆく。子供が偉いわね、すごいわといいながら鞄に詰められていくと、気づけば鞄は常備薬の補充分だけ膨れ上がっていた。はみ出んばかりの鞄を見て冥はふんわりと微笑む。

「今日はどうする? ちょっと休憩には早いかもしれないけれど」 

 時刻は11時過ぎ。昼食休憩には少々早く、また裁判所の休憩時間までもまだ時間があった。補佐である冥のみが11時過ぎに席を外すのは訳があり、それも更紗は重々承知でこの時間を選ぶ。

「冥さんのお茶、飲みたいですー」

 にぱにぱと笑う更紗に冥はにっこり微笑み『内緒ね?』とジェスチャーをしながら2人仲良く給湯室へと消えていった。遠巻きに見ていた職員は目の保養だと口々に呟きながらちらちらと二人を見守っている。小さな更紗と冥は髪の色こそ違うが何故かとてもよく似ていた。髪形が似ているのか有している雰囲気が似ているからかは定かではない。

 給湯室は和やかな雰囲気に包まれていた。他愛のない噂話や世間話をしながら飲む暖かい紅茶は格別だと更紗は笑う。冥は同じようにニコニコ微笑みながら冷蔵庫から取り出してきたのは薬草入りのロールケーキだった。きれいな緑色をしたそのロールケーキに更紗は目を見開き喜ぶ。

「この前更紗に教えてもらった野草とハーブを混ぜてみたんだよ」

 ティーポットの中には同じようにハーブの葉が揺らめいている。

「この前冥さんにおすそ分けしたハーブですねー。使ってくれてうれしいです!」
「うん、せっかくいただいたからね。すごくいい香りでびっくりした。更紗は本当に薬草が好きなんだね。…薬も、更紗が調合しているの?」
「ぼくは薬草とハーブを育てるのがお仕事ですー。お薬はちゃんと別の人が煎じてるのですよ?」
「そっか」

 ブレンドティはとても良い塩梅で、ロールケーキも下手な店で買うよりもずっと手が込んでおりおいしい。更紗はこの時間が好きだった。わざと裁判所が開いている時間を選び、わざと休憩時間を外して訪れる程度には。11時半頃に王の食事を用意するために席を外すことは分かっているからだ。
 他愛のない話や噂話、そして薬草や野草についてのあれこれを話しているうちに気づけば昼休憩間近になっていた。あわてて更紗は話を切り上げて席を立つ。もうすぐ裁判所も休憩時間だ。

「冥さんご馳走様でした! 僕はそろそろいくですー」
「あ! もうこんな時間…ごめんね、今日は薬ありがとう。またね」


 そういいながら慌しく裁判所へと駈けてゆく冥とは反対方向に更紗もまた駆け出した。



「あっぶないあぶない。冥ちゃんと茶ぁしばいとるとこなんて見られたら舌ひっこぬかれてまうわ」

 特有の変なイントネーションと方言を交えながら、愛らしい少年は艶やかな赤色の着物を纏った青年へと姿を変えた。
 裁判を終え、昼休憩に入った王は黙ったままだった。表情は曇り、明らかに機嫌が悪い。冥は苦笑しながら食後のお茶を用意している。

「…誰がいたの。今日、客人が来る予定は無かったけど」

 疑問符で終わっていない言葉は断定的で、冥は静かに笑いながら言葉を紡ぐ。

「お薬屋さんですよ。ほら、更紗…」
「あああのマセ餓鬼もどきね」

 とげのある言葉の意味に冥は不思議そうに王を見上げるが、その意味を口にすることは無かった。

「裁原さん、やけに更紗のこと嫌いますね」
「嫌う? 嫌いじゃないよウザイだけ。人の家に勝手に入ってきて私より先に冥くんのおやつ食べてるんだけど。しつけのなってない野良犬って嫌いなんだよね私」

 早口でまくし立て、昼食に用意された蕎麦をすするその表情は明らかに嫌悪が含まれており、言葉そのままの意味であることは明らかだった含みはない。自分の城に我が物顔で入りやがってあの野郎、という身もふたもない話なのだが、冥は特に不快感を露にする訳でもなく冷蔵庫に入れておいた抹茶チョコを取り出して男の前に出した。

「午前中は裁判お疲れ様でした。中間休憩まであと少しですから」
「…先にあのガキが食べた奴なんて出す気?」
「出す気ですよ。せっかく裁原さんのために作ったのに、そういうこと言うんですか?」

「………」

 冥はやんわりと毒を吐きながら笑う。こんな風に十王最高権威をもつ王に意見を言うことは同率の十王ですら難しい。
 それでいて、他人の気分を害さない程度を無意識か意識的かは分からないが心得ているので、始末に終えないと王は心の中でごちた。大げさにため息をひとつついて出された抹茶チョコレートを頬張る。口どけ滑らかなそのチョコレートはほろにがく、午前中に使い果たしたやる気を少しだけ回復させた。脳みそまで浸透するような甘みは俗物的な甘味調味料特有の甘さではなく天然物。上品なその味は王の好きな味だった。

「…まったく、君は本当に腕利きだね」
「恐れ入ります」

 仰々しい言葉は含み笑いによって台無しになるが、部屋の中は和やかな空気に包まれた。先ほどまでのギスギスした雰囲気を吹き飛ばしたその手腕こそ、冥が第十庁に無くてはならない存在であるという証なのかもしれない。
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